副光・小石川誕生日文
「早ぅございます、副部長」
休日の朝早く、小石川家のインターホンを鳴らしたのは、小石川の後輩兼恋人の財前だった。
夜遅くまで受験勉強を行い、起きたのはいつもより多少遅い時間だったが、
そのおかげで起き抜けに応対をすることになった小石川は、
驚きすぎて一気に目を覚ましてしまった。
「財前…どないしたん? てか、どうして俺の家…」
「部長に聞いたんですわ。勝手に押しかけてすんません」
あぁ、それで。どうりで教えたこともないのに知ってるはずやわ。
まだ、ぼぅ…、としたままの頭でもきちんと財前の言葉を理解し、いや、ええよ、と言葉を返した。
しかし疑問が湧く。
もう自分は部活を引退したし、今日は特に約束をしていたわけでもなかった。
世間的な行事があるわけでもなく、一体何の用で自分の家に来たのか、頭の中を巡らせる。
が、その疑問が形を成す前に、小石川の身体を寒さが襲う。
ドアを開けておくために支えていた腕に鳥肌が立ち、背筋にも悪寒に似た寒さが駆け上がる。
決して薄着をしていたわけではなく、きちんとカーゴパンツとトレーナーを着込んでのことだ。
そしてふと、自分よりも長く外にいる財前に目が止まり、
自分より着込んでいるのは見て取れたが、身体は冷えているのでは、と心配が頭をよぎった。
「財前、寒ぅないんか? 良かったら中入って…」
「いや、用はすぐに終わるんで、えぇですわ」
自分の言葉に被さるように言われ、小石川は返す言葉をさがす間を失ってしまった。
小石川は次に言う言葉をさがしているために口を噤んで、
財前は何かを言いよどんでいるのか閉口したままで、二人の間に沈黙が落ちる。
耳元を硬い風が吹き去ってゆく。
「あー…」
先に口を開いたのは財前だった。
下に向けていた視線を上に上げて、自分より高い位置にある瞳へと視線を向ける。
ガサッ、と音がし、小石川は財前が持ち上げた袋に目をやった。
袋には、自分の母親のよく利用するスーパーのロゴが入っていた。
「これ、特に何も思いつかなかったんで……好物だって聞いたんですわ、どうぞ」
「え、あ…おおきに」
目の前に差し出された袋に一瞬驚きながらも、
財前は、それじゃあ、と言って小石川家から離れていった。
小石川は何がなんだか分からぬまま、
財前の姿が見えなくなってから家の中に入り、自室に戻った。
二階にある自室に入ると、ベッドの上に放ってあった携帯のランプが赤く点滅していた。
赤く点滅するのは着信があることを知らせるもので、ディスプレイを見てみれば、
それは同じ部活で部長をしていた白石からの着信だった。
すぐにリダイアルを押すと、時間が経っていなかったためか、白石はすぐに電話に出た。
『あ、コイ? なんや、さっきは電話に出ぇへんかったやん』
「あー、ちょっと外出てて…」
『そうなん? まぁええけど。あ、でなー…』
白石の電話の内容は、受験が一段落したら一度部活に顔を出してみないか、ということだった。
それから他愛のない話が続き、その間に小石川は財前から貰った袋の中身を出してみた。
入っていたのは何の変哲もない…パセリ。
「あ…あー…」
『でなー…ん、どないしたん?』
「いや、さっき財前からモノもらったんやけど…パセリやった」
『オマエの好物やん』
「いや、そうなんやけど、なんでやと思う?」
『…、気づいてへんの、オマエ』
「何がや」
『それともワザといってんのかぁ?』
「だから、なんやねん、て」
『はぁ』
元より財前と小石川のことを知っていた白石は、
財前に小石川の家を教えた時点で気付いていたのだが、
まさか小石川自身が気付いていなかったとは思わなかった。
しかし自分から教えるのも癪なので、なんでもない、と話をはぐらかして電話を切った。
その夜、自分の家族に誕生日を祝われ、
やっと財前がパセリを寄こした意味を小石川は知ることになる。
一日遅れの誕生日文でしたー! パチパチパチパチーッ!(拍手)
…じゃなくて、おもっくそ勘違いしていて、本当は二月三日が誕生日でした! ごめんよ、小石川!
理由はまったく分からないのですが、なぜか二月五日だと記憶してました。もう好きって言えない!
とはいえ、前回の副光と比べ、こっちの小石川は案外普通にヘタレもしませんでした。
というのは、私の中にはこれまた何故か、ヘタレる小石川とヘタレない小石川がいるからです。
そんな感じな攻めは何人かいます、首藤とか、鉄とか、錦織とか…てか粗方そんな感じです(笑)
まぁ、小石川よ、年の進まない誕生日おめでとう!(何もかもが台無しな一言)
(あ、私、小石川のために日にち間違ったけどケーキ買ったよ!)
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