鳳宍
目の前に晒された身体に残る複数の傷。
この人が自分に勝つためにつけた傷。
その傷をつけたのは、紛れもなく、俺。
「何、ジロジロ見てんだ」
「いや、ちょっと」
その傷を見るたびに、心の奥に湧き上がる『何か』。
複数の傷の中の一つに、口付けを落とす。
身体を一瞬強張らせ、弛緩させる。
声を殺す小さな声が、俺の頭の上の方からする。
普段の生活の中では見えない場所にある傷。
その在り処を全て知っているのは、俺だけ。
「っは…」
全て違う場所の傷に口付けをする。
何度も何度も、この人が拒むまで。
俺が知っているすべての傷に。
慈しむそうに、いとおしむように。
「おい…長太、郎…っ」
すこし息の上がった声で名前を呼ばれて、
俺は口付けするのを止めて、宍戸さんの瞳を見る。
宍戸さんの瞳はほんのすこし、揺らいでいた。
決して怯えとかの類ではなく。
「何ですか、宍戸さん?」
身体を上へ移動させ、唇に口付けを一つ落とす。
「独占欲出すぎだ、バカ。理由は何だか知らねーけど」
威力の弱いゲンコツを頭に一つ喰らってしまう。
宍戸さんは怒っても笑ってもいなくて、
ただ、ちょっと困った顔をしていた。
俺はすごくアホっぽい顔をしていたと思う。
だって、何だか宍戸さんに見ていてもらえたことが嬉しくて。
次の瞬間には最高の笑顔だったと思う。
「くすぐってーから、止めろ。いいな?」
それから俺は宍戸さんの傷に一回だけ口付けをして、
宍戸さんを愛した。
R指定に入るのでしょうか・・・?
指定ってどっから入るのか曖昧でよく分からないんですよねぇ。
とはいってもこの程度のものしか書きませんのでどの年齢の方もご安心を。(笑)
お蔵出しなので、あんまり上手くないです;
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