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2024/11/23(Sat)02:00
雑記と主にテニプリ&気の向くままのジャンルのSS(ベーコンレタス)を置いています。
2024/11/23(Sat)02:00
2008/07/06(Sun)21:23
不知新(新垣誕生日文)
海を見ているのは楽しかった。
別に憔悴しているわけではなく、ただ、波のかえしていくのが面白かった。
砂浜ではなく岩場を選んだのは、こちらのほうが好きだったからだ。
赤というよりオレンジの強い太陽の光が眼を焼く。
海の青と太陽のオレンジの境界線はどこなのだろうか、と思って、
一生懸命に波のかえすのを見ていた。
今日は特別な日だ…俺の誕生日。
でもそんなに特別じゃなくて良かった。嬉しかったけれども、
周りがあまりに騒ぎ立てるものだから、ついいつもの日常が欲しくて、こうやって海を見ている。
海はいつも俺たちのそばにあったから。
だんだんとオレンジが負けてきて、結局、空と海は闇を受け入れていた。
俺の足もとにはくしゃくしゃに畳まれた洋服が置いてあって、その服は見慣れたモノだ。
その服は自分の幼馴染のモノで、俺よりすこし大きめの服だ。
陽は落ちたから、戻ってくるのはもうすこしだろうか、そう考えながら、波の音に耳を集中させる。
ざー…ざー……ざー…
ざばっ
不意に聞こえた、波とは違う音に肩が跳ね、無意識に閉じていた瞼が一気に上昇する。
「浩一?」
手に持った防水の懐中電灯の光の俺に当てたのは幼馴染の知弥で、
直接、眼に入る光に、俺は目を細めた。
「知弥、みーちらさん」
「あ、ああ、わっさいびーん」
海から上がって懐中電灯の光を消した知弥は、薄っすらとした月と海沿いの家からの明りを頼りに、
身体に張り付いた海水を拭き、服を着始めた。
ふと、違和感を覚える。
何だろうか。
…ああ、知弥の動きが、どことなくおかしいんだ。
「知弥」
「ぬー?」
「ぬー、隠しはるぬ?」
ぴっ、っと止まった知弥にまた同じ問いを問いかけると、
あー、と迷った声を出しながら、知弥は俯いた。
何かいけないことでも聞いたのだろうか。
声になっているのかなっていないのかよく分からない濁音を出し、
がしがしと頭を掻きながら、知弥は、観念した、という風にずいっ、と左手を突き出してきた。
「これ」
「…貝殻?」
「誕生日…欲しい物ねーらんって言ってたから…浩一、ちゅらさんな物しちゅんだばぁ?」
「うん」
「やくとぅ、これやたんら、まぁ、良いかやぁ、と思って」
「ふーん」
知弥から渡してもらった貝殻は真っ白く、普通の貝と大きさが変わるわけでもなかったが、
形が綺麗で、アクセサリーに使うといいんじゃないかと思った。
きっと知弥のことだから、形がいいものを探しに探したのだと思う。
それにしても真っ白な色だ。綺麗。
「知弥、にふぇーでーびる」
お礼を言うと、知弥は、はぁー、と息を吐いて、帰るぞ、と歩き出した。
その帰る途中で知弥に、
「次や欲しい物決めておけよ。毎回これじゃあ、わんぬ気がすまねーらん」
と言われた。
俺は毎回これでもいいかと思うのだけれど、知弥のために、来年は決めておこう。
「うん」
今日は、特別な日で、ちょっとは、良かったかもしれない。
No.53|比嘉。|Comment(0)|Trackback()
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