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雑記と主にテニプリ&気の向くままのジャンルのSS(ベーコンレタス)を置いています。
2008/01/04(Fri)14:42
No.12|山吹。|Comment(0)|Trackback()
2008/01/04(Fri)14:29
織室
あれから数年が経ち、それまでに僕は十次の両親に僕と十次の関係を話した。
罵倒されることも覚悟で話したが、反対に「十次をよろしく」と微笑まれて、
要らない力が抜けて倒れそうになった。
それから、十次と一緒に暮らし始めた。
最初は両親と一緒に住むほうがいいんじゃないかと思ったが、
その意向を十次の両親に話したら、「十次と一緒に住んであげて」と言われてしまった。
なんでも、十次の両親の親は互いに交際を認めなかったらしく、
引き裂かれそうになったことがあるんだとか。
それで駆け落ち同然に強引に結婚をし、引っ越しをしたそうだ。
僕と十次は結婚というわけにはいかないから、それくらいは許すと話してくれた。
ちなみに僕の両親は根っからの放任主義者で、僕のしていることに口出しはしてこない。
僕たちが住んでいるのは都内のマンション。十次のベッドは街が見える窓の側(そば)にした。
僕が仕事をしている間に飽きないようにと思って配置につもりだが、
街の風景がそんなにコロコロ変わるわけではないから、あんまり意味はないのかもしれない。
あと、僕が外に仕事に出かけると十次が不自由だと思って、
僕は家でできるパソコンでの文書作成の仕事に就いた。
元々十次がパソコンをいじるのが好きだったのも、すこしだけある。
「十次。起きてるの?」
「うん」
いつもならもう消えているはずの部屋の明かりが点いていて、
ドア越しに声をかけると返事が返ってきた。
許しを得て中に入ると、窓の外に目を向けたままの十次がいて、
僕はベッドの傍(そば)に置いてある椅子をひいて座った。
十次の視線を追うように外の景色に目を向けると、真夜中の暗さの中に沢山のネオンが見えた。
光る形はみな歪(いびつ)だ。
「眠れない?」
「そうじゃない。ただ、本当に生きてるだけなんだな、って思ってた」
俯いて首を振り、次に顔を上げたときは、諦めより淋しさのほうが増さった表情をしていた。
目頭にツンと水が染みたのが分かる。こんなに涙腺が弱いとは知らなかった。
名を呼びながらゆっくりと手を握ると、その表情のまま十次は僕のほうを向いた。
「翼さん…?」
「僕は、十次がいてくれて良かったと思ってる。生きててくれて、良かったと思ってる。
だからっ、そんなこと言わないでくれ…!」
涙声になってて、すごく情けないと思った。涙を流してて、みっともないと思った。
でもここ数年、ずっと言えなかったことが言えて、すこしだけ胸の突っかかりが取れた感じがする。
握った手を耳の近くにまで持ってきて押し当てると、かすかに自分の心音に隠れて、
十次の血流の音が聞こえたような気がした。そのまま、ずっと流せなかった涙を流した。
ふと、その手に力が入って、肩口に重みが広がる。
閉じていた瞼を開けば、十次の首筋と肩が見えて、十次が倒れこんできたのだと分かった。
ごめんなさい…、と、ボソボソと小さな声が肩口から聞こえた。
僕はゆっくりと十次の肩に額を預けて、僕たちは何も発せずただ互いの音を聴いた。
僕と十次の心音が共鳴して、一つの命の音のように聴こえたのが、とても嬉しかった。
心臓よりももっと奥にある何処か柔らかいところに、互いの音が響くみたいで。
その響きで心が震えていた。その振動で涙が溢れ出てきた。
意味なんかない。理由なんかない。そんなもの、考えられなかった。知らなくていいと思った。
二人して泣いて落ち着いて、一度だけキスをして、僕は自室に戻った。
目の周りが腫れぼったかったがすぐに寝る気にはなれなくて、ベッドの上に寝転がる。
テーブルに置いてあるスタンドからの淡い光が部屋をぼやぼやと照らしていた。
つい先ほどまでの感覚を、無意識に思い出す。
十次の手に触れたとき、血流の音が聞こえたと思ったとき、
いつも以上に十次が生きていて良かったと思った。音が共鳴したとき、
心が震えていると初めて感じた。生きている、それだけで良いと思った。
流れ作業のように心が震えたら涙が出てきて、でもその意味や理由は要らないと思った。
生きている、ただそれだけで良かったから。
十次、ちゃんと聴こえてた?
僕の心臓の音。
左胸に手を置くと確かに鼓動が伝わってきて、
生きてる音だと、命が生きるために燃える音だと感じた。
いつもは音楽を小さくかけて眠るけれど、
今日は音で眠ろうと思ってスタンドの電気を消してベッドに潜り込んだ。
明日の朝は、十次が笑って「おはよう」と言ってくれたらいい。
No.11|山吹。|Comment(0)|Trackback()