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雑文。

雑記と主にテニプリ&気の向くままのジャンルのSS(ベーコンレタス)を置いています。

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2024/11/22(Fri)15:31

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赤い雫。(※痛い表現有)

2008/08/14(Thu)16:12

織室
 
作品内で多少痛い表現を用いていますので、
「大丈夫」だという方のみ下の『読む。』からどうぞ。
 
室町好きな人も注意してください。(荻。も室町は好きです)
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読む。

No.56|山吹。Comment(0)Trackback()

体温。前編(※パラレル)

2008/01/04(Fri)14:42

織室
 
想いを告げることはできないと思っていた中学の頃、
好きという感情がこれほどまでに味気のないものなのかと、身をもって体感した。
よく胸が高鳴るとか聞くけど、僕の場合はただ胸が苦しいだけだった。
姿を見て嬉しいと感じるんではなくて、思いが届かないと悲しく思うんではなくて、
ただただ胸が苦しかった。
でも今はそうは思わない。
諦めたような表情をする十次に、泣きたくなるのだ。
 
中学を卒業するとき、高校で同じところに通うこと確立少ないだろうと思い、
僕はけじめをつけるために十次に想いを伝えた。
万に一つも返事が来るとは思ってなかったので、
「知って欲しかっただけだ」と言って、その場を後にした。
そのあと、十次から『付き合ってください』とメールが来たときは、
夢なんではないのかと本当に頬を抓(つね)ってみた。結果は、とてつもなく痛かった。
それから、高校は違ったものの、休みの日には連絡を取り合って二人で遊びに出かけた。
時折南たち中学の仲間を呼んでみたりもした。キスも、幾度かした。
同性で想いが通じた奇跡は、代わりに大きな代償を持っていったけれど…。
僕が高校卒業を間近にして、就職か大学かを決めかねている頃だった。
中学の先輩としか紹介されていない僕に、十次の両親から連絡があった。
よく一緒に遊びに行くことを知っていて連絡したらしい。
でもその次の言葉に、一気に血の気が引いた。
十次が、事故に遭ったというのだから。
病院名を聞いてすぐにそこへ向かった。
道順を知っていたからか、交通のものは使わずに走った。
足や身体が軽いも重いも、息が上手くできるもできないも、何も考えずに走った。
否、考えられなかった。
病院に着いたとき、十次のお父さんが玄関口にいて、僕を手術室前まで案内してくれた。
手術室前に置かれた背もたれのないソファには、十次のお母さんが涙を流して座って居た。
手術室のドアの上に目を向けるとまだランプは付いたままで、僕は何もできることが思いつかず、
じっとランプが消えることを待つしかできなかった。
 
手術室から白い病室に移された十次は、血の気は悪かったものの、
何とか一命を取り留めていて、僕や十次の両親は安堵の溜息を吐(つ)いた。
しかし、テニスをしていた十次にとって、死と同等の現実が待っていたのも、間違いではなかった。
事故によって脊髄が損傷し、下半身マヒに陥ったのだ。
三日ほど経って、十次は目を覚ました。記憶喪失ではないことを確かめる検査をしてから、
十次の両親は意を決して、下半身マヒだと十次に伝えた。
その反応は「そう」と冷静な返事だったらしい。僕はその時、その場にいなかった。
その後日くらいに「十次の目が覚めた」と連絡をもらい、僕は十次の病院に向かった。
病室に踏み入って真っ先に目に入ったのは、確かに息をし、生きている十次の姿。
とたん、十次を失ったような虚偽の喪失感が僕を襲って、
僕は十次を抱きしめてその存在があることを実感し、涙を流した。
「生きていて良かった」と独り言を呟いた。独り言のつもりだったのに十次から返事があった。
驚いて顔を覗き込めば、「ただ生きてるだけですよ」と、
遠くからは分からなかった精気のない瞳に見つめられた。

あとがき

No.12|山吹。Comment(0)Trackback()

体温。後編(※パラレル)

2008/01/04(Fri)14:29

織室
 
あれから数年が経ち、それまでに僕は十次の両親に僕と十次の関係を話した。
罵倒されることも覚悟で話したが、反対に「十次をよろしく」と微笑まれて、
要らない力が抜けて倒れそうになった。
それから、十次と一緒に暮らし始めた。
最初は両親と一緒に住むほうがいいんじゃないかと思ったが、
その意向を十次の両親に話したら、「十次と一緒に住んであげて」と言われてしまった。
なんでも、十次の両親の親は互いに交際を認めなかったらしく、
引き裂かれそうになったことがあるんだとか。
それで駆け落ち同然に強引に結婚をし、引っ越しをしたそうだ。
僕と十次は結婚というわけにはいかないから、それくらいは許すと話してくれた。
ちなみに僕の両親は根っからの放任主義者で、僕のしていることに口出しはしてこない。
僕たちが住んでいるのは都内のマンション。十次のベッドは街が見える窓の側(そば)にした。
僕が仕事をしている間に飽きないようにと思って配置につもりだが、
街の風景がそんなにコロコロ変わるわけではないから、あんまり意味はないのかもしれない。
あと、僕が外に仕事に出かけると十次が不自由だと思って、
僕は家でできるパソコンでの文書作成の仕事に就いた。
元々十次がパソコンをいじるのが好きだったのも、すこしだけある。
 
「十次。起きてるの?」
「うん」
いつもならもう消えているはずの部屋の明かりが点いていて、
ドア越しに声をかけると返事が返ってきた。
許しを得て中に入ると、窓の外に目を向けたままの十次がいて、
僕はベッドの傍(そば)に置いてある椅子をひいて座った。
十次の視線を追うように外の景色に目を向けると、真夜中の暗さの中に沢山のネオンが見えた。
光る形はみな歪(いびつ)だ。
「眠れない?」
「そうじゃない。ただ、本当に生きてるだけなんだな、って思ってた」
俯いて首を振り、次に顔を上げたときは、諦めより淋しさのほうが増さった表情をしていた。
目頭にツンと水が染みたのが分かる。こんなに涙腺が弱いとは知らなかった。
名を呼びながらゆっくりと手を握ると、その表情のまま十次は僕のほうを向いた。
「翼さん…?」
「僕は、十次がいてくれて良かったと思ってる。生きててくれて、良かったと思ってる。
 だからっ、そんなこと言わないでくれ…!」
涙声になってて、すごく情けないと思った。涙を流してて、みっともないと思った。
でもここ数年、ずっと言えなかったことが言えて、すこしだけ胸の突っかかりが取れた感じがする。
握った手を耳の近くにまで持ってきて押し当てると、かすかに自分の心音に隠れて、
十次の血流の音が聞こえたような気がした。そのまま、ずっと流せなかった涙を流した。
ふと、その手に力が入って、肩口に重みが広がる。
閉じていた瞼を開けば、十次の首筋と肩が見えて、十次が倒れこんできたのだと分かった。
ごめんなさい…、と、ボソボソと小さな声が肩口から聞こえた。
僕はゆっくりと十次の肩に額を預けて、僕たちは何も発せずただ互いの音を聴いた。
僕と十次の心音が共鳴して、一つの命の音のように聴こえたのが、とても嬉しかった。
心臓よりももっと奥にある何処か柔らかいところに、互いの音が響くみたいで。
その響きで心が震えていた。その振動で涙が溢れ出てきた。
意味なんかない。理由なんかない。そんなもの、考えられなかった。知らなくていいと思った。
 
二人して泣いて落ち着いて、一度だけキスをして、僕は自室に戻った。
目の周りが腫れぼったかったがすぐに寝る気にはなれなくて、ベッドの上に寝転がる。
テーブルに置いてあるスタンドからの淡い光が部屋をぼやぼやと照らしていた。
つい先ほどまでの感覚を、無意識に思い出す。
十次の手に触れたとき、血流の音が聞こえたと思ったとき、
いつも以上に十次が生きていて良かったと思った。音が共鳴したとき、
心が震えていると初めて感じた。生きている、それだけで良いと思った。
流れ作業のように心が震えたら涙が出てきて、でもその意味や理由は要らないと思った。
生きている、ただそれだけで良かったから。
十次、ちゃんと聴こえてた?
僕の心臓の音。
左胸に手を置くと確かに鼓動が伝わってきて、
生きてる音だと、命が生きるために燃える音だと感じた。
いつもは音楽を小さくかけて眠るけれど、
今日は音で眠ろうと思ってスタンドの電気を消してベッドに潜り込んだ。
明日の朝は、十次が笑って「おはよう」と言ってくれたらいい。


あとがき

No.11|山吹。Comment(0)Trackback()