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雑記と主にテニプリ&気の向くままのジャンルのSS(ベーコンレタス)を置いています。
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2008/05/03(Sat)16:10
一雨(BLEACH)
空座高校一年三組の担任・越智美諭は、なかなか生粋な考えを持った人物のようである。
「うぃーす・・・って、うをッ!?」
朝、学校に登校し、一護が教室の扉を開け中に入ると、たくさんの笹の葉が目に飛び込んできた。
どうやら扉のまん前に笹が置いてあったらしく、笹の葉を掻き分けると教室内が見えた。
笹の葉ののれんを潜り抜け、自分の席に向かおうとすると、
教卓に担任の越智がいることに気がついた。
越智がこの時間帯にいるのは珍しい。
「おー黒崎、おはようさん」
「あー、ども」
上機嫌な越智とは正反対に、一護はすこしばかり困ったような顔をする。
何せ、越智の座っている教卓の上には、これまたたくさんの折り紙が散乱していたからだ。
わっかにして鎖のように繋いであったり、
交互に切りこみを入れて網のようにしてあったり、
黄色の折り紙を切って星の形にしていたりと、
それはもう様ざま。
同時にはさみやのり等の道具も散乱しているものだから、収集がついていない。
『先生がこれでいいのか?』と問われたならば、『越智だから』の一言できっと片付くだろう。
「あ、黒崎くんおはよう! 見てみてっ、今日は七夕だからって、
越智先生が笹の葉と折り紙を持ってきてくれたんだよ!」
すごい行動力だよねー、と話すのは同じクラスメイトの井上織姫。
教卓の、越智とは正反対の位置に陣取り、手には折り紙を持っている。
他にも何人かのクラスメイトの女子が織姫と同じように七夕の笹に飾る飾りを作っている。
「お、そうだ黒崎、お前も手伝え」
「はぁ!?」
誰にも、越智に逆らうことはできないのだ。
「おーし、じゃあ今日のHRはこれに願い事を書けー」
クラスメイト全員が席に着き、朝のHRのチャイムが鳴ったと同時に、
越智は一護に切らせた短冊の紙を顔の横で振って見せた。
教室内では、楽しむ声と面倒くさがる声が妙に不可解な不調和音を奏でだす。
越智は列の前から紙を配るように指示して、各自で短冊に願い事を書くのを確認したあと、
自分も短冊に願い事を書き始めた。
「なぁなぁ一護、お前何て書くよ!?」
小声で訊ねながら肘で小突いてきたのは、
席から立ち歩いて来たのだろうクラスメイトの浅野だった。
両手には律儀にも紙とシャープペンシルの二刀流だ。
「テメェにゃ関係ねぇだろ」
「関係ねぇなくなんてねぇよー。ちなみにオレは『彼女ができますように!』」
「それは大層ご立派な願い事で」
何だよー、冷てぇなー、ばーかばーか、と小さな声で悪態をついてきた浅野。
一護は浅野に喋らすだけ喋らして、キリのいいところで裏拳を顔面に叩き込んだ。
あーゆーヤツは相手にするだけつけあがるんだ、と心の中で自己完結した。
浅野自身はもう一護の相手にされないのが分かったのか、今度は小島の元へ向かっていた。
「チャドはどうするよ?」
一護は浅野が小島のところへ行ったのを横目で確認すると、
自分の後ろの席にいる茶渡に声を掛けた。
「ム。適度に何かを書いておこうと思う」
「そうか」
茶渡に限ってはそんなことではないかと思っていた一護は、
茶渡の答えを聞くとさっさと前を向いた。
自分もそんなんでいいか、と思い、虚空の一点の見つめながら、何がいいか、と考える。
数十秒自分の中で考えをまとめると、短冊にシャープペンシルを奔らせた。
「じゃあ、これで全員書き終わったかー?」
「何かすげぇ・・・」
何人かが小声で呟いたが、無理もない。
笹の葉は見る影もないくらいに色とりどりの折り紙や短冊で埋め尽くされていたからだ。
昼休み。
一護たちは屋上でいつものメンバーで昼飯を食べ終わったあと、
浅野と小島は用があるといって席を外した。
残っているのは一護と雨竜と茶渡だけ。
茶渡は、一護と雨竜とはすこし離れた場所で空をぼーっと眺めている。
他の場所にはちらほらと生徒の姿がある。
「石田-、お前、短冊に何て書いた?」
「・・・黒崎がそういうことを訊いてくるとは思ってなかったよ」
「別に、気になっただけだ」
「別に特には何も書いてない。君は?」
「俺も。特に何も書いてない」
単調な会話が繰り返される中、一護はゴロンとコンクリートの上に寝そべった。
一護と雨竜はいわゆる恋仲ではあるが、こういう公共は場ではそんな素振りは見せない。
というより元より二人ともイチャつくとかそういうものには執着しないのだ。
雨竜は寝転んで制服が汚れることに神経質そうに眉をひそめたが、
何も言わずに一護の思うようにさせる。
その辺の行動に関しては熟知しているのだろう。
沈黙が流れる二人の間に、熱気を含んだ風が過ぎ去る。
「なぁ、七夕にかけた願いとか、織姫と彦星の話みたいなのって信じるか?」
一度途切れたはずの話を、一護は再度雨竜に振った。
神経質そうにひそめられていた雨竜の眉が、今度は怪訝そうにひそめられる。
「願い事は人やその内容に関わるだろう。ただ、織姫と彦星の話はどうにも好きになれない」
クイッと独特の眼鏡の上げ方で眼鏡を上げると、雨竜は視線を空へと移した。
自分たちの意識の遠くで予鈴のチャイムが鳴る。
「一年に一度会えるだけ、本人たちにとっては救われるようなことなんだろうけど、
僕はそんなのゴメンだね。一年に一度なんて、きっと我慢が利かないよ」
君もそうなんじゃないのかい?、と雨竜が一護と視線を合わすと、
まぁ、そうかもな、と一護から返事が帰ってきた。
「確かに一年に一度じゃあ俺も耐えられねぇ」
二人してうっすらと微笑み合う。
すると、今まで日の射していたのが、急に影に覆われる。
二人で後方に目を向けると、ずっと空を眺めていた茶渡が後ろに立っていた。
「予鈴がもう鳴った、他のヤツらももう教室に戻り始めている」
茶渡の言葉を聞き、一護と雨竜は自分たちの周りに置いてあった昼食の名残たちを持って、
三人で教室へと走っていった。
夕日の差し込む教室を背に、一護はベランダで黒板消しを叩(はた)く。
あいにくにも今日が一護の日直の日だった。
黒板消しを叩(はた)く中、一護は視界の端の中に入る笹の葉に意識と留めた。
無言で見る影もなくなった笹の葉を見つめ続け、
黒板消しを元の位置に戻したあと、一護は短冊の一つを手に取った。
「『全国制覇! 有沢たつき』・・・そういやぁアイツ、大会が近いがどうたらこうたら言ってたっけな」
有沢の短冊を見終わったあとも、何個かの短冊を取っては、
仲の良いと思うヤツの短冊に目を通してゆく。
「『彼女ができますように! いやマジでお願いします!! 浅野啓吾』
・・・汚ったねぇ字。つか切実すぎるぞ、啓吾。
『織姫と彦星が無事に会えますように 小島水色』
・・・他に何か願う事ねぇのかよアイツ、嫌味か。
『このクラスの奴が全員無事で卒業できますように!!! 越智美諭』
・・・越智サン、先のこと見据えすぎだから。
『これからもみんな仲よくいられますように!
あと織姫さんと彦星さんが無事に会えますように! 井上織姫』
・・・水色と同じこと書いてるのに、何でこんなに印象が違うんだろうな。
『アブウェロとの約束が果たせますように 茶渡泰虎』
・・・チャドらしいな」
次は、と笹の葉に目を向けると青色の短冊が目に入り、すぐに手に取る。
青い短冊は、雨竜のものだった。
「『このままで 石田雨竜』・・・現状維持ってことか、コレ?」
雨竜の短冊を眺めたまま、女々しいとは思いながらも、
一護は自分の都合のいい方へと思考を走らせる。
「つまりオレとも関係もこのまんま続けてく、てことか? いや、流石にそれは自惚れすぎか」
自分も意識しないままに薄く頬を紅潮させて、一護は持っていた雨竜の短冊から手を離し、
足早にベランダから足を遠のかせた。
ベランダと教室の出入り口の鍵を閉め、他に電気が全て消えているか等、
不備がないかを点検して、自分の机の上にあったカバンと日誌を持って、
一護は職員室へ向かった。
『大切なものを守れますように 黒崎一護』
一護の願いは、一護の努力次第によるかもしれない。
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